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カメラのレンズによる円形ボケや被写界深度の効果を効率的にレンダリングするための手法

コンピュータグラフィックスにおける光の挙動をシミュレーションする技術の1つとして,シーン内の間接光の影響を考慮してリアルな照明効果を再現するグローバルイルミネーションの研究は盛んに進められています.その中で本研究では,カメラのレンズの特性を考慮した円形ボケや被写界深度の効果を効率的にレンダリングするための重点サンプリングの手法を開発しました.従来のモンテカルロ手法でこれらを再現しようとすると,光線をレンズ上でランダムに分布させる摂動によってレンズを通過する光線を異なる方向に広げるといった手法がとられてきましたが,均一なレンズサンプリングによると,シーン内のハイライト領域のような重要な領域を適切にサンプリングできず,ノイズが多くなるという問題がありました.パスガイディングと呼ばれる手法によって,より重要な入射光強度分布を学習し,サンプリング効率を高めることが可能になりますが,円形ボケや被写界深度の効果を再現するためのパスガイディングの手法はこれまでに提案されてきませんでした.これは主に,隣接する画素同士でも,レンズ上の位置が少し違うだけで,到達するシーン内の位置が大きく変わってしまう視差の問題があることが原因です. そこで我々は,レンズ空間での重要度サンプリングを導入し,ハイライトスポットに向けて光線を集中させる手法を提案しました.本手法では,空間中のハイライトスポットを光強度フィールドでモデル化し,それをbipolar-cone projection(双極コーン投影)を通じてレンズ空間に変換することで,カメラ光線生成をガイドします.実装では,3次元ガウス分布関数を用いてハイライトスポットを世界座標系で表現し,その後レンズ座標系に変換することで視差の影響を吸収しています.これにより,視差が強くてもレンズサンプリングの重要度分布をうまく利用できるようにしています.こうして,高速で堅牢なガイドを実現しました.そして,計算負荷と記憶容量のオーバーヘッドを最小限に抑えつつ,映画・CM・ゲームなどの最終納品用の高品質画像を大量に生成するプロダクションレンダリングに適した手法を提供することができました.実験結果から,提案手法は,従来の均一サンプリングや再サンプリング手法と比較して,円形ボケや被写界深度の効果のレンダリング効率を大幅に向上させることを示しました.

本研究成果は,米国計算機学会(ACM: Association for Computing Machinery)主催のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術のトップコンファレンス ACM SIGGRAPH 2025 (2025年8月にカナダ・バンクーバーで開催)のTechnical Papers に論文が採択され,口頭発表を行いました.また,コンピュータグラフィックスおよび関連分野の国内学術研究シンポジウム Visual Computing 2025 の SIGGRAPH 招待講演セッションに招待されました.